まきますか?まきませんか?

もちろん豆の話ですが。
あと2日ですよ、節分。
節分といえば豆まき。


『あなた達が今年も健やかに過ごせるように、豆をまいて鬼を追い払ってあげるからね』
そう言って炒った大豆を握り締め、我が子に撃ちつける親があふれかえる日ですね。
最近では、炒るのも面倒と生の大豆をぶつける家庭も目立っているようです。


『痛いよ、痛いよ、お母さん!』
『あなたが普段お母さんの言うことを聞かないのは、体に巣食った鬼の所為なの!今日という今日こそ追い払ってあげるから!!』
幼い体に容赦なく叩きつけられる大豆のシャワー。
年中行事という言葉で誤魔化されているものの、それは年に一度だけ許された合法的な体罰
我が子の中に鬼なんかいないのはわかっている。
本当に鬼が巣食っているのは自分の心だ。
今年も自らの中に巣食う鬼が出てこないように、今日という日で払いきってしまうのだ。
『逃げたいならお逃げなさい!でもね、あなたの中から鬼がいなくなるまでは諦めませんからね!!』
泣き叫び逃げる我が子を悪鬼の如き形相で追いかけては豆を撃ちつける。
我が子が学校より帰宅すると同時に始まった悪夢のようなこの行事も、初めてはや数時間。
用意していた大豆(卸売り用30kgパック)も底を尽き、日は暮れ、世間は夜と呼ばれる時間に突入しようとしていた。
食事も取らず一心不乱に追い掛け回していたせいで、髪や服装は乱れ、頬はこけ、それでも目だけは今も獲物を求めてぎらついている。
子供の方も逃げ回った際にぶつけたのであろう、体のあちこちに大きな痣を作り、それ以外にも豆をぶつけられた部分が赤く腫れていた。
互いにもうそろそろ限界かしら・・・ふとそう思う。
追い詰められた我が子は、部屋の隅で頭を抱えてうずくまり、体を震わせながらゴメンナサイゴメンナサイと呟くだけの人形となってしまった。
もう終わりにしよう、そう思ったとき夫が帰宅した。


『何だ、先に始めていたのか。それじゃ私も仲間に入れてもらおうかな。』
夫の肩には大豆(卸売り用30kgパック)が担がれていた。